大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和55年(行ウ)1号 判決

静岡県浜松市高丘町六二番地の一

原告

株式会社東光製作所

右代表者代表取締役

竹下貢

右訴訟代理人弁護士

秋山知也

静岡県浜松市元目町三七番地一号

被告

浜松税務署長

浅井良平

右指定代理人

梅村裕司

新村雄治

小坂文弘

寺田郁夫

井奈波秀雄

岡島譲

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、原告の昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日まで、昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日まで及び昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの各事業年度分の法人税につき、原告に対し昭和五三年一二月二五日付でなした法人税額等の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二請求原因

一  被告は、昭和五三年一二月二五日付で、原告に対し、原告の左記各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税について、次のとおりの記載項目と金額とを掲げた更正(以下「本件各更正」という。)並びに過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした(右両者を包括して以下「本件処分」という。)。

1  自昭和五〇年四月一日至昭和五一年三月三一日事業年度分

所得金額 七三四万一八〇〇円

法人税額 二〇九万六四〇〇円

控除所得税額 三六万四二二七円

差引合計税額 一七三万二一〇〇円

納付の確定した本税額 △ 三六万四二二七円

(△は消極財産を示す。)

差引法人税額 二〇九万六三〇〇円

過少申告加算税額 一〇万四八〇〇円

本件処分により納付すべき税額 二二〇万一一〇〇円

2  自昭和五一年四月一日至昭和五二年三月三一日事業年度分

所得金額 一八四八万三九九九円

法人税額 六五五万三二〇〇円

控除所得税額 二四万五八四〇円

差引合計税額 六三〇万七三〇〇円

納付の確定した本税額 二六九万〇五〇〇円

差引法人税額 三六一万六八〇〇円

過少申告加算税額 一八万〇八〇〇円

本件処分により納付すべき税額 三七九万七六〇〇円

3  自昭和五二年四月一日至昭和五三年三月三一日事業年度分

所得金額 二三五六万五三九八円

法人税額 八五八万六〇〇〇円

控除所得税額 二六万二一〇九円

差引合計税額 八三二万三八〇〇円

納付の確定した本税額 三五四万七四〇〇円

差引法人税額 四七七万六四〇〇円

過少申告加算税額 二三万八八〇〇円

本件処分により納付すべき税額 五〇七万八六〇〇円

二  原告は、本件各処分を不服として、昭和五四年一月二五日異議の申立てをしたが、同年四月一九日付でこれを棄却する決定を受けたので、同年五月一一日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同年一二月二五日これを棄却する旨の裁決の通知を受けた。

三  しかしながら、本件各処分は、原告の従業員らによる横領によって被った損害につき、これを損金と認定すべきところ、損金と認めずになされたものであるから違法である。

よって、本件各処分の取消を求める。

第三請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一、二の事実は認めるが、同三の主張は争う。

二  被告の主張

1  原告の本件各事業年度の所得金額は次のとおりであるから、これと同額を原告の所得金額とした本件各更正は適法である。

(一) 昭和五〇年度分

(1) 申告所得金額 〇円

(2) 加算項目及び金額

経費(外注加工費)中否認 七七五万二四四〇円

(3) 減算項目及び金額

価格変動準備金限度超過額認容 四一万〇六四〇円

(4) 所得金額((1)+(2)-(3)、以下同) 七三四万一八〇〇円

(二) 昭和五一年度分

(1) 申告所得金額 九四四万一六二九円

(2) 加算項目及び金額

(a) 経費(外注加工費)中否認 九一九万七六五〇円

(b) 価格変動準備金限度超過額 四一万〇六四〇円

(3) 減算項目及び金額

未納事業税認容 五六万五九二〇円

(4) 所得金額 一八四八万三九九九円

(三) 昭和五二年度分

(1) 申告所得金額 一一六二万四八九八円

(2) 加算項目及び金額

経費(外注加工費)中否認 一三〇二万五五四〇円

(3) 減算項目及び金額

未納事業税認容 一〇八万五〇四〇円

(4) 所得金額 二三五六万五三九八円

2  申告所得金額に加算又は減算した理由

(一) 経費(外注加工費)について

(1) 原告は、工場長兼経理担当者である杉山和己(以下「杉山」という。)を下請業者への発注、下請業者から納入される製品検査及び原告の営業資金の保管・経理事務等の職務に従事させていたが、杉山は、原告の下請業者である柴田工業所経営者柴田光廣(以下「柴田」という。)と共謀のうえ、昭和四八年一〇月ころから昭和五三年六月ころまでの間、外注加工賃の単価の水増し、あるいは架空外注の手段により架空の外注費(以下「架空経費」という。)を計上し、原告の営業資金から合計四〇一二万七一四〇円を横領した。右横領に係る各年度分の横領金額は次のとおりである。

〈1〉 昭和四八年度分 一五〇万三七九〇円

〈2〉 昭和四九年度分 五一六万七七二〇円

〈3〉 昭和五〇年度分 七七五万二四四〇円

〈4〉 昭和五一年度分 九一九万七六五〇円

〈5〉 昭和五二年度分 一三〇二万五五四〇円

〈6〉 昭和五三年度分 三四八万円

(2) 原告は、杉山らの共同不法行為により右のとおりの被害を受け、同額の損害が発生したが、同時に杉山及び柴田の両名に対し、右損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得した。

(3) 従って、杉山らの横領により原告に損金が発生し、右損金は当該年度の負担に帰するものではあるが、同時に横領者に対する同額の損害賠償請求権を発生せしめ、それは会計上債権という資産の増加をきたすもので当該年度の益金を構成することになるから、全体としてみると損益には関係がないといわねばならない。

本件の場合、本件各事業年度の確定申告又は修正申告において横領という金員の社外流出のみが架空の経費として計上されていたので、被告は、本件各更正において、昭和五〇年度分七七五万二四四〇円、昭和五一年度分九一九万七六五〇円及び昭和五二年度分一三〇二万五五四〇円の各架空経費を否認すると同時に損金と関係のない同額の仮払金として各年度の所得金額に加算したのであるから、結局損益なきに帰し、正当な処理である。仮に仮払金という処理にかえて架空費科目を否認し、横領被害金を損金ということにしても、損害賠償請求権という益金が生じ、損金なしということになり結果は同じことである。

(二) 価格変動準備金限度超過額について

昭和五〇年度分については、所得金額の増加に伴う価格変動準備金限度超過額四一万〇六四〇円を認容して申告所得金額から減算し、昭和五一年度分については、前年度分の右認容分に対する当期価格変動準備金限度超過額四一万〇六四〇円を申告所得金額に加算した。

(三) 未納事業税について

昭和五一年度分については、前年度分否認所得金額七三四万一八〇〇円に伴い増加する事業税額五六万五九二〇円を、昭和五二年度分については、前年度分否認所得金額九〇四万二三七〇円に伴い増加する事業税額一〇八万五〇四〇円をそれぞれ当該期の損金と認めた。

3  本件各賦課決定について

被告は、本件各事業年度分の各更正に伴い国税通則法六五条一項の規定に基づき、右更正により納付すべき各本税の額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税の賦課決定をしたものであるから、本件各賦課決定はいずれも適法である。

第四被告の主張に対する認否及び原告の反論

一  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の(一)ないし(三)のうち、経費(外注加工費)を加算すべきことは否認し、その余は認める。

2  被告の主張2(一)の(1)のうち、杉山が柴田と共謀したことは否認し、その余は認める。同(一)の(2)のうち、原告が杉山に対し損害賠償請求権を取得したことは認め、その余は否認する。同(一)の(3)は争う。同(二)及び(三)は認める。

3  被告の主張3は争う。

二  原告の反論

原告が本件各事業年度にわたり合計二九九七万五六三〇円の横領による同額の損害賠償請求権を杉山に対し取得したとしても、右請求権は、その当時客観的に回収が不能であった。すなわち、杉山は、右横領当時はもとよりその後においても不動産その他みるべき一般財産を所有していなかったものであり、また横領した金員は、その都度遊興費や覚せい剤取得等のためにすべて費消した。従って、原告の杉山に対する損害賠償請求権は回収不能であったと認められるから、結局損金として計上されるべきものである。

第五原告の反論に対する認否及び被告の反論

一  原告の反論に対する認否

原告の反論は争う。

二  被告の反論

1  本件各事業年度において、杉山は原告に勤務し、毎月約四〇万円の給与所得があり、また、共同不法行為者である柴田は、柴田工業所を経営し、原告の下請をするなどして営業活動を行い、収益をあげていたのであるから、右両名とも原告の損害賠償請求権に対する支払能力を有していた。

2  加えて、被告の調査により、杉山らの横領事実発覚後、杉山らは、原告代表者竹下貢に対し、総額四〇一二万七一四〇円の横領事実を、各人の利得額に応じて原告に返済することを申し出で、杉山は、三三六二万〇六〇〇円を弁償することにして、その一部を昭和五三年一二月三一日現在、同人が原告に対して有している土地売買に関する差額金九八〇万円の請求権(昭和五三年三月ころ取得したもの)と相殺し、残額二三八二万〇六〇〇円は昭和五四年一月八日より割賦返済する旨記載した昭和五四年一月四日付文書を提出した。

柴田は、六五二万六五四〇円(実際は六五〇万六五四〇円であるが、計算違いによるものである。)を弁償することとして、その一部を昭和五三年一二月三一日現在、同人が原告に対して有している貸付金債権六〇〇万円(昭和五三年七月ころ貸付けたもの)と相殺し、残額五二万六五四〇円は割賦返済する旨記載した念書を提出した。

その後、原告は、昭和五三年度分の決算で、右申し出に従い本件損害賠償債権の対当額をもって、杉山に対する前記土地売買に関する支払債務及びその他の支払債務合計一〇〇四万一一九八円と相殺するとともに、残額につき、杉山からは昭和五四年一月分の支払給与から五万円の返済を受けたものの、その後同人が覚せい済取締法違反で懲役刑に服したため同人から支払いを受けていないが、柴田からは全額返済を受けた。なお、原告は、同年八月二日杉山から二〇万円の支払いを受けている(これは、原告の滞納金に係る納付分として、杉山の実兄が同人のために代払納付をしたものである。)。

第六被告の反論に対する認否及び原告の再反論

一  被告の反論に対する認否

1  被告の反論1は争う。

2  同2の事実のうち、原告と杉山、柴田らとの間に、本件損害賠償債権につき、杉山が内金三三六二万〇六〇〇円、柴田が内金六五二万六五四〇円をそれぞれ原告に賠償する旨の合意が成立したこと、原告が昭和五三年一二月ころ、杉山に対する右損害賠償債権の対当額をもって、杉山に対する債務合計一〇〇四万一一九八円と相殺したこと、昭和五四年一月分の支払給与から五万円及び同年八月二日二〇万円の各弁済を受けたこと、原告が昭和五三年一二月ころ、柴田に対する損害賠償債権の対当額をもって、柴田に対する借受金債務六〇〇万円と相殺したこと及び柴田から残額弁済を受けたことは認める。

二  原告の再反論

1  杉山に対する九八〇万円の相殺について

原告は、昭和五三年ころに営業資金が不足したので、暫時いわゆる「住宅ローン」を利用して営業資金を調達することとして、昭和五三年九月ころ杉山名義で土地を購入し、その購入価格を実際よりも高く申告して杉山名義で多額の融資を受け右価格と融資額との差額金を原告が杉山から借入れた形式で営業資金として使用し、融資金の弁済は、原告が直接弁済をしていたものである。その後杉山の本件横領行為が発覚し、形式的に原告の杉山に対する右借入債務九八〇万円と本件損害賠償債権とを対当額で相殺処理をしたものである。以上のとおり、右九八〇万円は土地売買の差益金でもなく、また杉山個人の資産でもない。

2  昭和五四年八月二日の二〇万円の弁済について

杉山は当時唯一の財産であるマンションを処分したが、代金からローンを弁済した剰余金は二〇万円であった。被告が原告に対する滞納税に基づいて杉山を第三債務者として同人に対する原告の損害賠償債権を差押えていたところ、右剰余金二〇万円を杉山の実兄が納付したものである。

3  柴田に対する六〇〇万円の相殺について

原告は昭和五三年ころ前記のとおり営業資金が不足していたところ、柴田が国民金融公庫から融資を受けられるとのことであったので同人の諒解をうけて昭和五三年六月ころ同人名義で公庫から七八〇万円余りの融資を受け、同日、原告が右金員を柴田から借入れた形式で営業資金として使用し、融資金の弁済は、原告が公庫に直接弁済していたものである。このように公庫に対する実質的な借主は原告であり、柴田は名義上の借主であった。そして、本件横領行為発覚後、形式的に相殺という処理をしたものであり、柴田の自己資金による弁済ではない。

第七証拠

一  原告

1  甲第一、二号証

2  証人杉山淑子、同杉山和己、原告代表者本人

3  乙号各証の成立(第二号証の一、第四、五号証、第七号証については原本の存在とも)はすべて認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第一一、一二号証

2  証人杉山和己

3  甲号各証の原本の存在及び成立は認める。

理由

一  請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件各処分は原告の従業員らによる横領によって被った損害につき、これを損金と認定すべきところ、損金と認めずになされたものであるから違法である旨主張するので、以下この点について判断する。

1  本件各事業年度における原告の申告所得金額が被告の主張1の(一)ないし(三)の各(1)に示す金額であること、右各事業年度において、被告の主張1の(一)(3)、(二)(2)(b)及び(3)、(三)(3)の各項目に挙げる加算及び減算額が存したこと、原告の工場長兼経理担当者である杉山が、昭和四八年一〇月ころから昭和五三年六月ころまでの間、外注加工賃の単価の水増、あるいは架空外注の手段により架空経費を計上し、原告の営業資金から合計四〇一二万七一四〇円を横領したこと、杉山の本件各事業年度における横領額が被告の主張1の(一)(2)、(二)(2)(a)、(三)(2)に示す金額であること及び原告が杉山に対し右横領額と同額の損害賠償請求権を取得したことはいずれも当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第八号証、第一一号証、証人杉山和己の証言によれば、右横領は杉山と柴田の共謀によるものであることが認められる。そうすると、原告は柴田に対しても本件横領による損害賠償請求権を取得したものというべきである。

2  ところで、横領行為によって法人が損害を被った場合、その損害が法人の資産を減少せしめたものとして、右損害を生じた事業年度における損金を構成するとともに、他面、横領者に対して法人がその被った損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得し、それが法人の資産を増加させたものとして、同じ事業年度における益金を構成するものであると解されるから、右損害は右損害賠償請求権が横領者の無資力その他の事由によってその実現不能が明らかになったときに初めて損金として計上するのが相当である。

原告は杉山らに対する本件損害賠償請求権が回収不能であった旨主張するので判断するに、原告と杉山、柴田らとの間において、本件損害賠償債権につき、杉山が内金三三六二万〇六〇〇円、柴田が内金六五二万六五四〇円をそれぞれ原告に賠償する旨の合意が成立したこと、原告が、その時期はともかく、杉山に対する右損害賠償債権の対当額をもって杉山に対する債務合計一〇〇四万一一九八円と相殺し、残額については、昭和五四年一月分の支払給与から五万円の返済を受けるとともに同年八月二日二〇万円の弁済を受けたこと、柴田については、その時期はともかく、同人に対する借受金債務六〇〇万円と相殺し、残額についても弁済を受けたことはいずれも当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に前記乙第八号証、第一一号証、成立に争いのない乙第一号証、第三号証、第六号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第二号証の一、第四、五号証、第七号証、証人杉山和己の証言及び原告代表者本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  杉山は昭和五四年二月一〇日に退職するまで原告会社に勤務し、毎月約四〇万円の給与所得を得ていたが、被告の昭和五三年九月から同年一二月までの原告に対する法人税調査により本件横領事実が発覚した後、杉山らは、原告代表者竹下貢に対し、総額四〇一二万七一四〇円の横領事実を認め、各人の利得額に応じて返済する旨約した。そして、杉山は自己の利得額三三六二万〇六〇〇円を返済することにし、そのうち昭和五三年一二月三一日現在、同人が原告に対して有している土地売買に関する差額金九八〇万円(実質は原告が杉山名義で銀行から借り受け、杉山からの借入金としていたもの)と相殺し、残額二三八二万〇六〇〇円は昭和五四年一月八日から毎月五万円を返済するが、収入増の状態が発生した時には返済額を増額する旨の返済方法を記載した昭和五四年一月四日付の文書を原告に提出した。他方柴田は自己の利得額六五二万六五四〇円(実際は六五〇万六五四〇円であるが、計算違いによるものである。)を返済することとし、そのうち昭和五三年一二月三一日現在、同人が原告に対して有している貸付金債権六〇〇万円(実質は原告が柴田名義で国民金融公庫から借り受けたもの)と相殺し、残額五二万六五四〇円は毎月二万円を返済する旨を記載した念書を提出した。これに対し、原告代表者竹下は、右両名の返済額及び返済方法の申し出をいずれも承認し、杉山を引き続き雇用した。

(二)  その後、原告は、昭和五三年度分の決算で、右申し出に従い本件損害賠償債権の対当額をもって、杉山に対する前記土地売買に関する支払債務及びその他の支払債務合計一〇〇四万一一九八円と相殺し、更に柴田に対する前記借受金債務六〇〇万円と相殺するとともに、残額について、杉山からは昭和五四年一月分の支払給与から五万円の返済を受け、柴田からは、同人が原告を通して株式会社本田技研に納入した物品代金債権の一部をもって相殺する旨を記載した昭和五四年三月二〇目付の依頼書の提出を受け、その頃右債務と相殺し、全額返済を受けた。

右認定の事実によれば、本件各事業年度において、原告の杉山らに対する本件損害賠償請求権が杉山らの無資力その他の事由によりその実現不能が明らかであったとは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、本件各事業年度において、杉山らの横領にかかわる架空経費を否認すると同時に、これを杉山らに対する仮払金として処理した被告の本件各更正は、横領行為により被った損害を損金に、これに対応する損害賠償請求権を益金に計上したのと結果を同じくするものであるから、右更正には原告が主張する違法は存しない。

4  次に、本件各賦課決定について判断するに、本件各賦課決定の前提である本件各更正に経費を損金と認定しなかった違法が存しないことは前判示のとおりであるから、本件各賦課決定に原告主張の違法は存しない。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高瀬秀雄 裁判官 荒井勉 裁判官 山崎勉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例